京大人文研科学史資料叢書 
全13巻

≪2023年7月刊行開始!≫ 【呈内容見本】  6ヶ月毎配本予定


責任編集:武田時昌・平岡隆二
菊判上製・函入・各巻平均400頁
各巻予価 税込16,500円(本体15,000円+税)〈分売可〉

ISBN978-4-653-04740-7(セット)

* 収録内容は一部変更の可能性がございます。

1 近世天文暦学Ⅰ 游藝『天経或問』
 平岡隆二 編  
2 
近世天文暦学Ⅱ 梅文鼎『暦学疑問』
 小林博行 編
3 
密教占星術 『宿曜経』
 矢野道雄 編
4 
仏教天文学 円通『仏国暦象編』
 宮島一彦 編  
5 
宇宙論・天文占 張衡『霊憲』/『宋書』天文志
 田中良明・髙橋あやの 編
6 
伝統医術Ⅰ 古代 『黄帝内経太素』
 武田時昌 編 
7 
伝統医術Ⅱ 中世 『僧深方』
 多田伊織 編
8 
伝統医術Ⅲ 近世 『急救仙方』/『痧脹晰義』  
 大形 徹・池内早紀子 編
9 
養生思想Ⅰ 長生術 『三元参賛延寿書』/『活人心』
 永塚憲治・劉 青 編
10 
養生思想Ⅱ 房中術 『素女妙論』
 永塚憲治 編  税込14,300円(本体13,000円+税)
11 
農業技術 王禎『農書』農器図譜
 渡部 武 編  
12 
術数書Ⅰ 古代占術 日書/『五行大義』
 名和敏光 編
13 
術数書Ⅱ 風水術・易占 『宅経』/『卜筮元亀』
 宮崎順子 編

内容見本(PDF)

 

●刊 行 の 辞●

京都大学人文科学研究所名誉教授 武田時昌

 京都大学人文科学研究所の科学史研究室では、研究会、読書会で数多くの中国科学史、技術史関連の文献を会読してきた。その歴史は、戦前の東方文化研究所の時代に遡る。当時の名称は、天文暦算研究室(主任:能田忠亮)であったが、会読テキストに『漢書』律暦志を取り上げ、中国天文暦法の基礎的研究として、三統暦の数理的解明に挑んだ。人文科学研究所に改組された後、主任教授は、藪内清、山田慶兒、田中淡、武田時昌と推移するが、会読形式の科学史研究会は継続され、天文暦術、医薬、農業技術から博物学、占術、日用類書に至るまで多種多様な典籍の読解に取り組んだ。
 その成果の一部は、『天工開物の研究』(藪内清編、恒星社厚生閣、一九五三)、『新発現中国科学史資料の研究訳注・論考篇』(山田慶兒編、京都大学人文科学研究所、一九八五)のように出版されたものはあるが、科学史研究室に未定稿のままに眠っているものがたくさんある。
 例えば、山田班の『黄帝内経太素』、田中班の王禎『農書』農器図譜には、全巻の訳注ファイルがある。両書ともに会読を完遂した後、読み直し作業をスタートさせたが、山田教授が国際日本文化研究センターに移籍したり、田中教授が逝去したりで、中断したままになっている。その存在を知る人々から出版を望む声が幾度となく寄せられている。私(武田)の主宰した共同研究班、班員の有志との読書会での成果物も同様であり、出版経費が大幅に削減され研究論文集を優先させたために、公刊には至っていない。
 私が定年退職で研究所を去る数年前から、科学史研究室に保管された歴代教授の研究成果物や共同研究会の会読資料を整理し始めた。そして、臨川書店から藪内清著作集、山田慶兒著作集を刊行する運びになった。また、田中淡著作集は、田中悦子夫人や弟子の髙井たかね人文研助教の編集で、中央公論美術出版より刊行中である。それらの出版の見通しが立ったので、いよいよ訳注集の総仕上げに取りかかった。そして、臨川書店に訳注シリーズの企画を持ちかけ、どうにか科学史資料叢書の発刊に漕ぎ着けた次第である。  
 近年、中国学全般の動向において、世代交代が進行する一方で、若手研究者が激減し、停滞気味である。文理兼修を必要とする科学史はなおさらであり、かつては世界に誇る水準にあったが、危機的状況にある。
 中国伝統科学文化に関する概説書、入門書は、昭和の時代には藪内清博士を代表として数多く存在するが、近三〇年はマイナーなものしか刊行されていない。翻訳書については、中央公論社の「世界の名著」シリーズや朝日出版社の「科学の名著」シリーズ(いずれも藪内清編)に収められているものぐらいしか見出せないのが現状である。本訳注シリーズが日本における中国科学史研究を活性化し、学問的伝統の継承、発展の一助となることを期したい。


●推薦文●

共同研究の遺産
京都大学名誉教授 金 文京

 本叢書の編集責任者である武田時昌氏は、私の京大人文研東方部でのかつての同僚である。人文研は戦前より共同研究をもって世に知られるが、中でも東方部の共同研究は、会読による典籍の綿密な訳注作りに特色がある。専門を異にする複数の研究者による会読には、多大の努力と忍耐を要するが、本当に大変なのは、会読が終わった後、原稿を整理して公表までこぎつける作業である。そのためせっかくの原稿が日の目を見ずに眠っていることも少なくない。定年後、清閑の日々を送っているとばかり思っていた武田氏が、十三巻にもおよぶ膨大な量の原稿を整理し公刊されると聞き、私は大いに驚いた。まずは武田氏の一大決心に敬意を表したい。と同時に、この難事業はもとより武田氏一人の力だけではなく、後任の平岡氏および会読に参加された多くの方々の協力があってこそなしうるものであり、藪内清先生以来、伝統ある科学史研究室の結束とチームワークの良さに感心した。本叢書が斯界の今後の研究に大きく貢献するであろうことは、門外漢である私のよく断言するところである。先日、路上で偶然武田氏に遇い、立ち話で推薦文を依頼され、私は即座に承諾した。もとより昔の同僚としての誼であるが、決してそれだけではない。


遙かなる共同作業
大阪府立大学名誉教授/元・日本科学史学会会長  斎藤 憲

 何故に原典資料集を編纂するのか。翻訳と注釈では足りないのか。その答は単純である。原典の全てを理解することは不可能であるから。時の篩を潜り抜けた伝来資料は孰れも当代最高の知性が、一言一句、最上の表現を選び抜いた労作である。しかしそれらは我々には不可解な謎に満ちている。専門の学徒とて現代の子、遠い時代の、異なる文脈を背負う著作を完全に理解できるはずもない。何気ない一節に想像を超える前提や思考が隠されていないとは断言できない。凡そ無意味と思われる異読も、それ自体が謎めいた割注も、其処に意味を見い出す学徒がいつの日か現れるやも知れぬ。だからこそ膨大かつ退屈な、しかも時に困難な決断を要求する校勘・校訂という作業から逃れる訳にはいかない。忍耐は時に思わぬ発見によって報われる。とはいえ謎の大半は次代の考究に託す他はない。古典研究とは、時と場所を隔て相見えることもない学徒の共同作業でもある。西洋古典学は今なお十九世紀の校訂版に負うところが少なくない。してみれば、本資料叢書が連綿たる考究の鎖の中でひときわ大きな一齣を印し、次世紀に至るまで学徒と読者に恵沢をもたらすと予期して当然であろう。




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